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「aromatopia」vol.10
2001年7月発行:フレグランスジャーナル社
アロマと自然療法の学際的専門誌


キャリア素材の特性と応用
馬油について
竃師堂 直江 総一郎
馬油とは
一般名:馬脂
英名:horse oil/horse fat
馬のたてがみ、尾の基部、皮下脂肪またはこれらの混合したものを圧搾または煮沸して得られた油分を脱色、脱水し、ろ過した後、脱臭したものである。
語源
馬の脂肪を馬油(ばーゆ)と呼称するようになってからはまだ日が浅い。昭和初期の頃、古伝医道研究家、直江昶(福岡出身)氏が馬の脂肪を火傷の治療薬として研究し始めた時に「馬油(ばーゆ)」と呼んだのがそのはじまり。それまでは特に固有名はなかった。一般名は馬脂(ばし)。
表1主な脂肪酸の構成(含有率%)
| 脂肪酸 |
馬油 |
ヒト体脂 |
牛脂 |
| C14:0 ミリスチン酸 |
3.9 |
3 |
3.3 |
| C14:1 ミリストレイン酸 |
0.5 |
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0.8 |
| C16:0 パルミチン酸 |
24.5 |
25 |
26.6 |
| C16:1 パルミトレイン酸 |
9.4 |
9 |
4.4 |
| C17:0 ヘプタデカン酸 |
0.3 |
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1.3 |
| C17:1 ヘプタデセン酸 |
0.6 |
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0.7 |
| C18:0 ステアリン酸 |
2.7 |
4 |
18.2 |
| C18:1 オレイン酸 |
36.9 |
48 |
41.2 |
| C18:2 リノール酸 |
17.3 |
11 |
3.3 |
| C18:3 リノレン酸 |
2.1 |
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| C20:1 イコセン酸 |
0.6 |
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| *ヒト体脂は、J.Lipid.Res.(1970)より抜粋 |
| 性状 |
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色:無色または淡黄色の油液状、または白色の固体状。 |
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香り:無臭またはわずかに特異臭 |
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性質:不乾性 |
| 一般的な規格基準値 |
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酸価:0.3以下 |
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けん化価:190〜210 |
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ヨウ素価:65〜95 |
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不けん化:4.0%以下 |
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比重:0.900〜0.950 |
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融点:油液状12℃以下 固形状30〜35℃ |
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純度試験:(1)重金属 20ppm以下(1.0g、第2法)
(2)ヒ素 2ppm以下(1.0g、第3法、装置B) |
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強熱残分:0.1%以下(第3法、3g) |
馬油の起源
馬油を外用として使い始めた歴史を調べると、中国にそのルーツを探ることができます。
5世紀から6世紀にかけて書かれた中国の医師、陶弘景の著書「名医別録」には、”馬の油は髪を生ず”と記されています。また16世紀ごろ、同じ中国の医師、李時珍によって書かれた薬物辞典「本草網目」には”しみ・そばかすの除去、肌荒れ治療、筋肉痙攣の緩和”などの馬油の効能が記されています。このように中国では、古くから馬油を外用漢方薬として使用していたことがうかがえます。
日本には、奈良時代に渡来した鑑真和尚の一行が、漂着した鹿児島から奈良に上る途中で、九州筑前地方に伝えていったという説が最も有力ですが、明確な文献が見つかっていないため、定かではありません。馬を食用として使っている地方では、かなり古くから火傷や怪我の民間薬として馬油が重宝していたようですが、一般に使われるようになったのは明治以後のことのようです。
また、筑波山の麓で歯切れのよい口上とともに売られていた”がまの油(センソを配合した軟膏)”は、その効能が馬油とあまりにも似ていたことから、中国から原料のセンソが供給されなくなった後、馬油を原料にしたものをがまの油と称して売っていたという俗説もあります。
民間伝承の馬油の薬学的効果
外用
火傷・床ずれ・痔・化膿傷・肩こり・筋肉疲労・腰痛・湿疹・水虫・蓄膿症・花粉症・乾燥肌・美顔・美肌・シミ・こじわ・油やけ・象皮症・育毛・その他
前述のとおり、馬油は中国では5世紀ごろから漢方薬として使われていたことがはっきりしています。ただ、このころは漠然とその効果だけが記録されていましたが、最近は科学的にその理由が解明され始めました。
最初に注目すべき点は、動物油としては際立って不飽和脂肪酸の割合が高いこと。そして、特に多価不飽和脂肪酸の含有率が高く、特にn-3系α-リノレン酸を含有していることが馬油が効果を発揮するポイントのひとつです。α-リノレン酸は多価不飽和脂肪酸のひとつで、コレステロールや中性脂肪を除去して血行を促進させる働きがあります。
次に、脂肪酸組成表(表1)で比較しているとおり、ヒトの皮下脂肪の脂肪酸組成に構成比率がとにかく似ているということ。一般に不飽和脂肪酸の含有率が高い植物油は常温でオイル状を呈し、流動性に富むため動物油に比べて皮膚への浸透性に優れています。
ところが、馬油もパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸などの不飽和脂肪酸の含有率が高いため、常温では他の動物油に比べると断然流動的で、かつヒトの脂肪酸組成に似ていることから植物油と比較しても皮膚への浸透がさらに早いのです。馬油は表皮内部に浸透し皮膚を外敵から守っている皮脂膜に吸収され、皮膚全体を覆うことで保湿効果を発揮して、やはり血行を促進します。
これらの特性を見ると、馬油は皮膚の血行を促進することで、新陳代謝を高めて、皮膚細胞の再生を活発にさせていることがわかります。つまり、怪我の治癒、皮膚の老化、筋肉疲労など血行障害に起因する症状に大きな効果を期待することができるのです。
また、浸透性に優れることから、表皮近くに存在する好気性細菌(白癬菌など)の除菌効果も期待できます。
タイプによっても外用特性が異なりますので表2に例を示します。
表2 馬油のタイプ別特性
・油液(オイル)状タイプ・・馬油の中でも特に浸透吸収性に優れているため、脂性肌タイプの肌に合う。
・固形油状タイプ・・馬油の油液状タイプに比べると、乾燥肌に有効。 |
内服
血栓症予防・便秘解消・ダイエット
α-リノレン酸を高含有していることから、血中コレステロールや中性脂肪の除去、またダイエット効果を期待できます。
アロマセラピーへの馬油の利用
アロマセラピーとしては、マッサージオイルのベースとしてすでに使われ始めています。使用後に油性感が残らないという特性を生かせば、さらに利用価値は上がるでしょう。
注意する点は、馬油は酸化しやすい油であるということ。高温に加熱すると酸化して劣化を早めることになります。馬油は劣化すると独特の異臭を発する欠点があるため、アロマセラピーには致命的です。加熱しなくてもブレンドが可能な油液状タイプは常温で、また、固形油状タイプをブレンドするために加熱して溶解する場合は、40℃以上に加熱しないように注意が必要です。品質保持のための酸化防止剤としては、天然ビタミンEを0.1%程度配合するのが安全で効果的です。
残念ながら、市販されている馬油には、純度、品質にかなり大きなばらつきがあります。したがって、アロマ用精油を希釈する基剤として馬油を選び且つ、基剤にも外用としての治癒特性を期待するならば、その選定には十分注意する必要があります。この4月から化粧品は全成分表示になりましたから、化粧品として製品化された馬油を購入するときは「成分:馬油100%」の表示を確認し、場合によってはメーカーに試験表を要求されてもよいでしょう。
馬油の安全性
馬油にはいろいろな薬理効果が期待されるため、化粧品基剤や保湿成分として利用されるケースも少なくありません。
しかし、馬油は他の動物油と比べると酸化しやすく、またステアリン酸が少ないため石鹸の原料として使う場合にはパーム油などの酸化しにくくて馬油の欠点を抑える働きをするオイルと混合して使うとよいでしょう。
いろいろな化粧品としての利用はほぼ安全であるといえますが、ごくまれに痒みがでたり、使用後に赤くほてったりすることがあります。 |

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